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『資本論』に学びながら、世の中の矛盾について考えたことをつづっていきます。

汚染水の海洋投棄に反対する科学者の見解 ――感想 その2 

  政府と東電は、10月5日、福島第一原発事故で出た放射性汚染水の海洋投棄の第2回目を開始しました。廃炉の最終的な姿も見えず、放射性汚染水の発生源を断つ見通しもないまま、関係者の理解も得られないままに、政府は計画どおりに海洋投棄に向かっています。わたしは、放射性汚染水の海洋投棄は、「現実的」ではなく、最悪の選択だと思っています。即時に、放射性汚染水の海洋投棄を中止し、堅牢な大型タンクに保存し、汚染水の発生源を止める策を講じなくてはいけないと思います。

 さて、原子力政策に関する反対運動を、質・量ともに大きく力強くしていくために、専門家からいろいろ学び、自分の批判の武器を鍛えていこうと思います。

前回のわたしのブログで、太平洋諸島フォーラムPIF)の専門家パネルの科学者のひとりである・ケン・ベッセラー博士の汚染水の海洋投棄に反対する見解を紹介し、博士の見解についての感想を書きました。今回も、引き続き感想を書こうと思います。

* ケン・ベッセラー博士の主要に言いたいこと(抄)
 私たち(※筆者注:全米海洋研究所協会NAML)は、各タンクの放射性核種含有量、放射性核種を除去するために使用される多核種除去設備(高度液体処理システム)(ALPS)に関する重要なデータ(critical data)がないこと、……多核種除去設備(ALPS)が、影響を受けた廃液に含まれる60種類以上の放射性核種(その一部は人を含む生物の特定の組織、腺、臓器、代謝経路に親和性を持つ)をほぼ完全に除去できるかどうかが、重大なデータ(critical data)がないため、依然として深刻な懸念として残っている。 ……一端、ここで切ります。ベッセラー博士の言いたいことの全文は、ひとつ前のブログに載っています。

 

🖋筆者の感想

👉 その2
 博士が「ALPSに関する重要なデータがない」、と指摘したことについて、わたしは、〔やっぱり!〕と思いました。ALPSの性能を評価するために肝心な・絶対になくてはならない、そのような専門家ならわかる〝データ〟がない! ということではないでしょうか。

トリチウムのみが除去できないというだけではなく、1回では〝基準〟超えの放射性物質を多く残すタンクが、「処理水」とも呼べずに、再度の処理が必要な「処理途上水」と称するタンクが7割ほどあるわけですから、どうしてもALPSの性能を疑いたくなります。政府や東電が「トリチウムを除く大部分の放射性核種を取り除いた状態でタンクに貯蔵しています」と宣伝する・「多核種除去設備」ALPSの性能は、この程度のものだ、ということがよくわかります。

▲7割の汚染水タンクの中には、トリチウム以外にも、とくに炭素14ストロンチウム90、ヨウ素129なども「放出基準」を大きく超えて存在しています。そのことを隠しきれなくなって、〝トリチウム〟の生体への影響を「無視できる程度」と押し出しているのではないか、と思います。
炭素14半減期は5,700年)は、細胞構成成分(タンパク質、核酸)、特に細胞DNAに組み込まれるため、分子の切断を伴うDNA損傷が生じ、細胞が壊死したり、突然変異が誘発したりする可能性がある、と言われています。
◆人工放射能であるストロンチウム90(半減期は28.79年)は、カルシウムと似た性質をもち、海産生物に濃縮されると言われています。生体内に取り込まれると、一部は排泄されますが、かなりの部分は骨の無機質部分に取り込まれ、長く残留し、人体を侵します。
◆同じく人工放射能であるヨウ素129(半減期は1,570万年)は、体内に取り込まれた時には、ベータ線による甲状腺被曝が問題になります。1歳の子どもでは甲状腺の重量が1/10なので、被ばく線量は成人の10倍になります。ヨウ素129が海洋に放出されると、海藻が濃縮されます。

▲さて、ALPSの運用実態について、「2013年に東電が導入後、現在まで8年間も「試験運転」のままなのだ」(『日刊ゲンダイ』web版2021年4月16日)ということが報じられています。
 このことを参議院資源エネルギー調査会で追及した議員に対して、原子力規制委員会(※当時)の更田委員長は、「汚染水をいかに処理して貯留するかが非常に急がれた。使用前検査等の手続は、飛ばしている部分があると思う」、と明かしました。随分と、開き直った態度で、まったくあきれてものが言えません。

グリーンピースの東アジア核問題スペシャリストのショーン・バーニーさんは、IAEA国際原子力機関)の調査について、「IAEAは日本の海洋放出計画を支持しましたが、ALPS(多核種除去設備)の運転状況は調査しておらず、放射能汚染水を生み出し続けている高レベルの燃料デブリについて触れていません」、と明らかにしています。
IAEAの作成した「ALPS小委員会に関する検討報告書」には、ALPSの性能については、「安定的で信頼に値するだけ継続して作動する」と「日常的かつ持続的に作動し、トリチウムを除く62種の放射性核種を排出規制基準以下に除去することができる」というふたつの文があるのみです。しかも、この部分は、IAEAが実際に日本でALPSの性能を検証した結果ではありません。
 IAEAは、原子力発電を推進する機関です。ここで、ALPSの性能に問題あり! などということを記した報告書を作成したら、他の国の原発政策にも影響を及ぼしかねません。だから、ALPSの放射性物質の除去処理性能に疑問をもったとしても「安定的で信頼に値するだけ継続して作動する」と「日常的かつ持続的に作動し、トリチウムを除く62種の放射性核種を排出規制基準以下に除去することができる」と東電の提出した資料内容をなぞっているだけで、その根拠を示さなかったのではないでしょうか。

 次回も、感想を書くつもりです。

 

 放射性汚染水の海洋投棄を、中止せよ!
 各国のトリチウムの海洋投棄、止めよ!