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『資本論』に学びながら、世の中の矛盾について考えたことをつづっていきます。

汚染水の海洋投棄に反対する科学者の見解 

 政府と東電は、福島第一原発事故で出た放射性汚染水の海洋投棄の第2回目を、10月5日に予定しています。本来、放射性汚染水を海に流すなどとは、許されることではありません。政府と東電は、この汚染水に含まれる放射性物質トリチウムだけALPS処理を行ってもこれだけはどうしても取り除けない、とことさらに取り上げて、人体におよぼす影響が極めて小さい・原発処理水の海洋放出はどの国でも行っていることなどとして〝安全キャンペーン〝をおこなっています。政府や東電は直接あるいはマスコミや御用学者を使って、海洋投棄される汚染水の中に残っているのはトリチウムだけであるかのように宣伝し、多くの民は、「科学的に安全」ということばによって、〔トリチウムは、科学者に安全性を証明されているので、健康に問題はないのだ〕と思い込みをさせられているようにわたしには思えます。
 反対運動を質・量ともに大きく、力強くしていくために、太平洋諸島フォーラムPIF)の専門家パネルの科学者のひとりである・ケン・ベッセラー博士の汚染水の海洋投棄に関する見解を紹介したいと思います。

 

📒ケン・ベッセラー博士の見解
*博士の紹介
 最初に、ケン・ベッセラー博士について少し紹介しておこうと思います。
ケン・ベッセラー博士は、米国・ウッズホール海洋研究所の海洋環境放射能センターの責任者で、海洋に存在する天然及び人工放射性核種の研究を専門としています。この研究所は、わたしが先日ブログで紹介した、汚染水の海洋投棄に反対声明を出した・全米海洋研究所協会を構成するひとつの研究所です。博士は、福島第一原発事故の直後4月に、原発から1kmのところまで近づいて海水などの放射能汚染について調査をした科学者です。チェルノブイリ原発事故の際にも、黒海放射性物質の影響を調査・研究しています。
 「福島原発事故でも事故直後の2011年4月、他の日本人研究者と連名で福島原発から出た放射性物質の海洋環境への影響」という論文をまとめた。この論文は、世界で最も権威のある科学雑誌『ネイチャー』への掲載も決まっていた。ところが、日本の気象庁がベッセラー氏の記述は風評を煽るとして削除を求めた経緯がある。つまり、ベッセラー氏は日本の役所が隠したい内容でも科学者の良心に従って、その危険性を説いてきた反骨の科学者と言える。」と、『週刊現代』(2013.10.16)は報じています。この報道からわかることは、日本政府は、福島第一原発事故当初から、民に〝真実〟を教えたがらないし、事故当初から放射性汚染水の海洋投棄を計画していた、とのだということです。加えてわたしが思うことは、被災者たちが受けるのは「風評被害」ではなく、「実害」である、ということです。

 

* ケン・ベッセラー博士とヘンリー・プナ太平洋諸島フォーラムPIF)事務局長との会談

 ケン・ベッセラー博士は、昨年エジプトで開催されたCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)において、ヘンリー・プナ太平洋諸島フォーラムPIF)事務局長との会談し、日本が決定した・福島原発事故で出た放射性汚染水の海洋投棄について、話し合いました。COP27のリリースでは、プナ事務局長が、(放射性汚染)水が(海洋に)放流されても安全であることを確認するという以前の立場を、放流以外の選択肢を検討するという立場の変更を示唆した、と発表しています。このことは、ふたりの会談での最も重要なことだとわたしは思います。

※なお、ベッセラー博士の見解は、太平洋島嶼地域で配信されているPACNEWS第2部のトップに掲載されました。

 

* ケン・ベッセラー博士の主要に言いたいこと

 私たち(※筆者注:全米海洋研究所協会NAML)は、各タンクの放射性核種含有量、放射性核種を除去するために使用される多核種除去設備(高度液体処理システム)(ALPS)に関する重要なデータ(critical data)がないこと、そして汚染された廃水の放出に際して『希釈が汚染に対する解決策 』という仮定について、懸念を有している。

 希釈の根本的な根拠は、有機結合、生物濃縮、生物濃縮という生物学的プロセスの現実と、局所的な海底堆積物への蓄積を無視している。蓄積された廃棄冷却水に含まれる放射性核種の多くは、半減期が数十年から数百年に及び、その悪影響はDNA損傷や細胞ストレスから、アサリ、カキ、カニ、ロブスター、エビ、魚など影響を受けた海洋生物を食べた人の発がんリスク上昇にまで及ぶとされている。さらに、多核種除去設備(ALPS)が、影響を受けた廃液に含まれる60種類以上の放射性核種(その一部は人を含む生物の特定の組織、腺、臓器、代謝経路に親和性を持つ)をほぼ完全に除去できるかどうかが、重大なデータ(critical data)がないため、依然として深刻な懸念として残っている。
 東京電力と日本政府によって提供された裏付けデータは不十分であり、場合によっては、不正確である。サンプリングプロトコル、統計デザイン、サンプル分析、仮定に瑕疵があり、その結果、安全性の結論に欠陥をもたらし、廃棄に対するより良い代替アプローチのより徹底的な評価を妨げるのである。放射性廃棄物を安全に封じ込め、貯蔵し、処分するという問題に対処するためのあらゆるアプローチが十分に検討されておらず、海洋投棄の代替案は、より詳細に、広範な科学的厳密さをもって検討されるべきである。
 
🖋筆者の感想
 わたしは、海洋科学者としてのケン・ベッセラー博士の主要に言いたいことを、とても重みのある主張として受け止めました。博士は、政府や東電の主張を裏付ける役目を率先して担っている「エセ科学者たち」とは異なり、権力者に忖度しないで、自らの研究に真摯な科学者である、と思います。
 さて、わたしは、ケン・ベッセラー博士が主張していることについて、少し考えをまとめていきたいと思います。

1 「各タンクの放射性核種含有量のデータがない」ということ
 博士がここで問題にしていることは、科学的分析における最も基本的で重要な指摘である、と思います。つまり、ALPS処理を行ったものも含め、海洋放流する放射性汚染水の総量が示されていない、ということが問題である、と博士は言っているのだ、と思います。
 放射性汚染水の総量は、各タンクの中身の放射性物質の量を足し上げればわかります。しかし、そのデータがないから、政府と東電が海洋放流する放射性汚染水の総量がわからない、ということです。
 つまり、放射性核種の精確な総量――すなわち、完全な分析を行うための十分で、完全な情報の全て――がわからなければ、いったいタンクの中にどのようなものが入っているのかがわからなくなり、タンクの中身を科学的に調査・分析することが全くできなくなってしまう、ということではないか、とわたしは思います。そもそも、希釈に使う海水は、どこから持ってきたもので、その中身の成分は精確に測定されているのでしょうか。
 「データがない」ということは、データそのものはあるのだが、政府や東電がほとんど示さない、ということなのか? それとも、各タンクの中身の測定はほとんど行ってはいない、ということなのか? どうなのでしょう?? 

 まぁ、とにかくはっきりしていることは、すでに海に放流してしまった汚染水についても、この中にどういうものが入っていたのかは、本当のところはわからない、ということではないでしょうか。恐ろしすぎます! 「科学的に安全」なんて、言ってる場合じゃありません。

 2022年6月2日、FoE Japanたち市民が原子力規制庁や東電等と会合を持った時のやり取りを書いておきます。
 FoE Japanの満田さんが、〔各タンクの測定を行っておらず、タンクごとの濃度および総量について示していない。問題ではないか〕、というように発言しました。これに対する回答は、以下の通りです。
原子力規制庁の回答 ⇒東電は、タンクごとの濃度および総量について示していないが、放出前にALPS処理水に含まれる放射性核種の濃度を測定・評価し、トリチウム濃度からALPS処理水量を設定する。

東電の回答 ⇒ALPS処理水等を貯留するタンク群毎の主要7核種等の濃度については、当社ホームページの処理水ポータルサイトに掲載している。

 両回答は、ともに〔タンクごとの濃度および総量について示していない〕と悪びれずに言ってのけています。しかも、東電は、満田さんが「各タンク」といっているのに、堂々と「タンク群」といい、しかも「主要7核種等」の濃度はHPに掲載しているなどと、うそぶいている始末です。市民グループの発言に、真摯に答えないどころではなく、市民なんて簡単にだませる対象である、とたかをくくっているのではないでしょうか。
 政府や東電にとって重要なことは、「放射性汚染水を海洋投棄すること」です。そのためには、「放射性汚染水を海洋投棄すること」が〝科学的に安全ではない〟ということが証明されては困るのです。だから、そうなるようなデータは公表しないのです。すべてのデータを公表したがために、科学者たちによって、〝本当は、やばいのだ!〟ということが見抜かれてしまい、「放射性汚染水の海洋投棄」が中止にでもなったら、政府が推し進める〝原発政策〟がとん挫してしまうかもしれないからではないでしょうか。

 放射性汚染水の海洋投棄反対!!

 <゜)))彡 さて、長くなってしまったので、ケン・ベッセラー博士の指摘に対する感想は、次回も続けて書きたいと思います。

※わかりづらい箇所があったので、加筆・訂正しました(2023.10.06)