裁判官37人の司法判断、その責任を問う国賠訴訟!
大川原化工機・元顧問の遺族が国を提訴――第1回口頭弁論
化学機械メーカー「大川原化工機」に対する権力犯罪で、勾留中に判明した胃がんにより保釈されないまま元顧問・相嶋静夫さんが死亡しました。その遺族3人が、今年4月6日、逮捕や勾留の令状を発布し、保釈請求を退けた裁判官37人の司法判断は違法だとして、国に計約1億6800万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こし、その第1回口頭弁論が6月29日に行われました。遺族が意見陳述し、国側は請求棄却を求め、争う方針を示しました。
■保釈が認められずに、勾留中に発症した進行性胃がんが手遅れに
相嶋さんは2020年3月11日、生物兵器製造に転用可能な噴霧乾燥器を、経済産業省の許可を得ずに中国と韓国に輸出したという事実をねつ造され、社長・常務らとともに逮捕、起訴されました。3人の会社役員は、自白を強要されても一貫して無実を訴えました。社員たちも、実験を繰り返し、同社が輸出した噴霧乾燥器が生物兵器製造に転用することは不可能であることを証明しました。相嶋さんは、逮捕されてから約7カ月後に進行性の胃がんが発覚し、弁護側が「がんの専門医を受診させたい」と保釈を求めても、東京地裁は「罪証隠滅の恐れがある」として、計8回の保釈請求を却下されたのです。
保釈申請に対し東京地裁の担当裁判官(※輪番)は、10月16日、勾留執行停止を8時間だけ許可しました。相嶋さんは、都内の病院を受診し進行性の胃がんと診断されましたが、なんら処置を受けられず、症状改善も得られないまま拘置所に戻らざるを得ませんでした。さらに保釈申請を行った結果、担当裁判官(※輪番)は、11月6日に勾留執行停止を許可しました。相嶋さんは、外部の病院に入院したものの、進行性胃がんはすでに肝臓に転移し、末期状態でした。相嶋さんは、起訴取り消し前の2021年2月7日に、自身の無実を確認することなく「被告」のまま亡くなりました。あまりにも惨すぎる!
■検察の起訴取り消しの欺瞞
東京地検は、2021年7月30日、起訴を取り消しました。しかし、起訴取り消しにあたり、東京地検は「有罪立証には時間がかかり、被告に負担を与えてしまうので(起訴を)取り消した」と記者レク(※主催者が事前に整理した情報を記者に一方的に伝える説明会)を行ったのです。このため、大川原社長ら3人が無実であるという事実認定がされず、地検が被告を許したという印象を与えかねない報道が一部でされていました。
■相嶋さんの遺族たちと社長、常務による警視庁と東京地検に対する国賠訴訟
相嶋さんの遺族は、社長、常務とともに、3人と会社の名誉を回復し、真実を明らかにするために、警視庁(東京都)と東京地検(国)の責任を問う国賠訴訟を提訴しました。
「(訴訟の)長期化を避け、大川原社長らの名誉を回復するため、訴訟では捜査の違法性を柱としましたが、原告は人質司法の被害者なのだと一般の方にも理解してもらえるように、私自身、発信を続けました。記者の方々も、その部分を報道してくれました。
およそ1年半、社員役員をあげてトラック3台分の資料提出を行い、291回に及ぶ事情聴取という任意捜査に協力しながら、逮捕・勾留され、その過程で無実の人の命が奪われている。この事件を通じて、人質司法は国民全員が巻き込まれる可能性があると、知ってもらえたのではないかと思います」、と主任弁護士の高田さんは語っています。
一審判決で認められたのは警視庁公安部の捜査不足であり、この事件が公安部によってつくり上げられた・えん罪事件である、という認定まではされませんでした。しかし、二審では、公安部が経産省に執拗に働きかけ、強引にガサ入れの協力を取りつけたこと、経産省の解釈を公安部が捻じ曲げたという、えん罪の背景にあった点が事実認定されています。
二審の東京高裁は、国と都に約1億6600万円の賠償を命じる判決を下し、後日確定されています。
しかし、相嶋さんが生きていたら、技術者として、中国や韓国に輸出した噴霧乾燥器が生物兵器製造に転用することなど不可能であること、つまり、逮捕・勾留そのものがデタラメであることを、法廷で、自分の言葉で、証言できたでしょう。それを思うと、実に悔しい限りです。

一審判決の翌朝、主要紙は「違法」判決を一斉にトップで報じた(CALL4 撮影)
【補足】
△担当捜査官の処分の軽さ
処分対象は退職者を含めた計19人で、最も重い懲戒処分が公安部外事一課の渡辺誠管理官と宮園勇人係長への減給だが、どちらもすでに退職しているため給与の支払いはなく、当人たちは何も払う必要はない。
△東京地検は処分者ゼロ
違法捜査にあたった検事や上司らの処分者はゼロ。
塚部貴子検事は、同僚検事から消極証拠の存在を知らされていたのに無視したことが東京高裁での確定判決で認定されたにもかかわらず、処分されなかった。
加藤和宏検事は、「罪証隠滅のおそれ」を口実に保釈請求に反対し続けたのにもかかわらず、処分されなかった。
■今回の相嶋さんの遺族が起こした国賠訴訟
今回の原告は、相嶋さんの妻、長男、次男の3人。
この訴訟は、相嶋さんを逮捕・拘留し続けた37人の裁判官の司法判断の違法性を問うことで、日本の刑事司法に法の支配を取り戻し「人質司法」に終止符を打つことを目指しています。相嶋さんの遺族が社長、常務とともに起こした国賠訴訟では、捜査機関の逮捕状請求、勾留状請求、公訴提起などが違法であったと認められましたが、裁判官たちの法的責任は追及されませんでした。しかし、逮捕を決めたのも、勾留を決めたのも、裁判官です。そして、最期まで保釈を認めなかったのも、裁判官です。これらの違法性を問うものです。
■「人質司法」による殺人
昨今「人質司法」が大きく問題視されていますが、元凶は裁判官の司法判断です。裁判官が検察官の準抗告に屈したりしなければ、よく調べもせずに「罪証隠滅の恐れがある」との思い込みをしなければ、「人質司法」は少しは防ぐことができるのではないでしょうか。責任を問われている37人の裁判官たちは相嶋さんの容態を確認することさえなく、ほぼ機械的に勾留を延長し、保釈請求を却下してきました。信じられないことに、高齢の相嶋さんが無実を訴え続け、進行胃がんが発覚しても、すなわち治療のためにすぐさま専門病院に入院する必要がある状況になっていても、担当裁判官は、逃亡や証拠隠滅の恐れがあると判断し、保釈を認めませんでした。その結果、無実の確定を知ることなく、相嶋さんはその命を絶たれました。これはもう、国家権力による殺人、としか言えません。
■法廷での意見陳述(参考:「朝日新聞デジタル2026.06.29」、毎日新聞 追跡公安捜査2026.06.29、日経新聞デジタル2026.06.29、CALL4 2026.06.29)
◎相嶋さんの妻
相嶋さんの妻は法廷で、子どもや孫と写った相嶋さんの写真をスクリーンに映し、「夫はまだ死にたくなかった。執拗(しつよう)に繰り返した保釈請求却下の理由をお聞きしたい」と悔しさをにじませて語りました。どんどん痩せて弱っていくのに勾留が続く夫と拘置所で面会し、「うその自白をして保釈してもらってすぐ病院に行こう」と声をかけた時もあった、と明かしました。
☞ わたしの感想:このとき、相嶋さんは「ただ黙ってうつむいていた」そうです。法廷で、妻がそのことに触れたのかどうかについて、この記事ではわかりません。相嶋さんは、自身が設計に携わった噴霧乾燥器(スプレードライヤー)のことを知りつくしていたので、生物兵器に転用されることなどありえない、と何度も捜査陣に説明しました。その矜持にかけて、「ウソの自白」などできない、しかし、自分の病気を心配する妻の気持ちを慮って「ただ黙ってうつむいて」いたのではないか、と思います。
◎相嶋さんの長男
長男は、「裁判官には絶望した。まるで悪魔と対峙(たいじ)しているかのようだった」と心情を明かし、無実なのに逮捕・勾留された父の絶望を「あなたたち裁判官は一人の人間として想像できなければなりません」と訴えました。そして、「(保釈申請の)却下理由の説明は一切なく、まるで『死んでくれた方がありがたい』と冷酷に突き放されているような気持ちだった」と非難しました。
◎高野隆・弁護団長
胃がんの判明後も保釈請求が認められなかった経緯に触れ「裁判官はなぜこれほどまでに保釈を嫌がり、勾留にこだわったのでしょうか」と問いかけました。
「裁判官たちは、逮捕や勾留を認めて警察や検察を応援することが自らの存在意義だと思っているとしか思えない。しかし、これは大きな間違いです」と指摘。憲法に基づき、勾留の必要性を厳しく審査することこそが令状を出す裁判官の役割なのに、37人の裁判官はそうした職責を無視したと主張しました。
◎相嶋さんの次男(今回は、法廷での意見陳述はなし。「報告会」にて)
次男は、「父は死の影が迫る中、技術者として『正しいことがなぜわかってもらえないのか』と、物理的事実を無視される絶望の中で命を削られた父の無念。」「私は父の死を招いた裁判所の責任を問い、二度とこのような悲劇を繰り返されない「人道の司法」へ進化してほしい。」「国賠訴訟で勝訴し、捜査機関から形ばかりの謝罪がなされても、裁判所は今も沈黙を貫いています。父が遺した最後の問いを、社会へ投げかけたいのです。」とのべました。
※次回期日は10月30日に開かれ、国側が原告らの主張に対して反論を述べる予定。
【補記】
相沢さんの遺族は、拘置所の対応が不適切だったために相沢さんが胃がんで死亡したとして、国に1000万円の損害賠償を求め国家賠償請求の訴訟を起こしていました。その控訴審判決で、東京高裁は2024年11月6日、請求を認めなかった一審東京地裁判決を支持し、遺族側の控訴を棄却しました。
木納敏和裁判長は判決理由で、相嶋さんが胃痛を訴えた後、拘置所の医師がすぐに内視鏡検査などをしなかったことについて「医学的に不適切とは言えない」と指摘。外部の病院に入院させなかったことも「緊急性は認められない」とし、いずれも医師に義務違反はなかったと判断しました。
では、いったいなぜ、相嶋さんは死ななければならなかったのか? まったく驚くばかりの欺瞞的な判決内容です。
さて、この「大川原化工機冤罪事件」と称されている〝事件〝は、公安警察と検察が、大川原化工機の噴霧乾燥器を生物化学兵器に転用可能であると捏造し、経産省をまきこんで引き起こした逮捕・勾留という権力犯罪です。相嶋さんの死は、この権力犯罪によって引き起こされた国家権力による殺人です。
このことを、わたしたちは、けして忘れてはなりません。