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『資本論』に学びながら、世の中の矛盾について考えたことをつづっていきます。

経団連の『労使労使自治を軸とした労働法制に関する提言』に抗議する

 日本経済団体連合会経団連)は、大企業の2024春闘方針たる「経営労働政策特別委員会報告」公表と同日の1月16日に、『労使自治を軸とした労働法制に関する提言』(以下、『提言』)を公表しました。
 ☞タイトルがヤバすぎる!!
▼タイトルから、透けて見えること
 *「労使自治を軸とした」と表現するのは、「企業別労組の産別勢揃い・横並び」という〝春闘〝の完全な否定を公言できるからです。今年の春闘においても、昨年「満額回答」を行った大企業のいくつかが、「労使フォーラム」を待たずして、賃上げ内容を公表しています。「自社に適した方法で」、と言う経団連・十倉会長の〝各企業ごと〝を強調したことばに呼応しています。
 *「労働法制に関する」とありますが、特に労基法が関連すると思います。労基法は、日本で働く全ての労働者の雇用や労働条件を、「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすべきもの」として、その最低基準を定めた法律です。労働者の生存権を保障することを目的にして、労働契約や賃金の支払いの原則、休日・年次有給休暇、割増賃金などについて定めています。特に、労働時間規制については、労働者の生命・健康はもちろんのこと、労働者の生活時間を保障するためのものであり、規制緩和などもってのほかです。
 これに手をつけようというのだから、労働者にとっての権利はく奪的な内容が予想されます。つまりは、この『提言』は、「労使自治」の名のもとに、国家による・労働者を同一に保護する労働法制の〝規制緩和〝=解体を求めるものである、といえます。
 さらに、『提言』の「3.(1)今後求められる労働法制の姿」では、「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすべきもの」=「生存権」を否定したものとして・「生産性の改善・向上に資する労働法制に見直す必要がある」、とまで言い切っています。わたしは、歯ぎしりせざるを得ません。絶対に、許すことはできません。

 以下に、『提言』の内容を検討していこうと思います。

▼『提言』の核心的な目的
 『提言』は、基本的な視点を三つ挙げています。
労働者の健康確保は最優先
労使自治を重視/法制度はシンプルに
時代に合った制度見直しを
①について
「労働者の健康確保は最優先」などと謡っていますが、労働時間規制緩和の条件として「十分な健康確保」を言っているにすぎません。しかも、「自主的な健康管理に一層努めることが期待される」として、企業としての責任は放棄し、政府と健康保険組合等に任せています。つまり、労働者の健康管理は、自己責任である、と言っているのです。
 しかし、経団連は、労働者の生命や健康にとって最も重要な規制である〝労働時間の規制〝の緩和=規制を取っ払うことを目指しているのですから、とんでもないことです。「労働者の健康確保は最優先」と、本気で考えていたら、労基法に物申すことなどできないはずです。
②について
 「労使自治を重視/法制度はシンプルに」という視点のもと、労基法の見直しを求めています。「労使自治を重視」とは、「労働条件の画一的・集団的な規制」を解体し、企業ごとに「労使自治」の名のもとに、労基法の保護をなくし、適用除外の部分を全面に押し出す、ということです。
 『提言』の言う「労働基準法制による画一的規制の弊害を最低限にしていく」とは、上記のようなことを意味します。
 具体的には、イ)【過半数労働組合がある企業対象】労働時間規制のデロゲーションの範囲拡大、ロ)【過半数労働組合がない企業対象】労使協創協議制(選択制)の創設などを求めています。※「デロゲーション」とは、労働者と事業者との集団的な合意により、各社の実態に応じ規制の例外を認めること―― と経団連は説明しています。要は、〝労働時間規制を適用するな〝ということを言いたいのです。しかし、本来の意味は、法律の有効性を部分的に減じることであり、法律の部分的撤廃または廃止を意味します。
 イ)について☞ 「労働時間規制のデロゲーションの範囲拡大」とは、裁量労働制高度プロフェッショナル制度の対象業務についても、議論の上、拡大することを考えている、ということです。ここでは、資本の言いなりになる労働組合が対象になっています。
 ロ)について☞ 経団連は、労働者の連帯組織であり、経営者側に対して、組合員の労働条件の改善や賃金交渉などを行い、労働者の雇用を守る・労働組合法で守られている〝労働組合〝ではなく、「労使協創協議制」を創設すべき、と言っています。なんの法律にも守られていない・労使協創協議制のもとでも、「労使コミュニケーションの一層の充実に向けて」と称して、「労使一体」の形をつくり、現行労基法では「契約の自由」の制限がありますが、「契約締結権限の付与」や「就業規則の合理性推定や労働時間のデロゲーション」も検討の対象としています。(※下線は、筆者による)
 さて、経団連は、「労働条件の画一的・集団的な規制」をなくすことを目的としていますが、現行の労働基準法は、「労使自治」という企業ごとに決められたものではなく、まさに「画一的・集団的」であるからこそ全国の労働者を対象とすることができるのです。
 ゆえに、経団連の『提言』は、「労使自治」の名目で、労働者保護を外し、労働条件の設定を個別バラバラにする〝規制緩和〝は、労働法制を解体するものだ、と言えます。労働基準が、経営者の意のままになってしまいます。
 また、労組のない企業を対象に、「労使協創協議制」を創設することは、労働組合そのものを否定する、ということです。団結権ストライキ権などのない「労使自治」のもとでは、労働者は個々ばらばらにされてしまいます。個人的な労働者の反論は、経営者につぶされてしまうでしょう。


 さて、昨年3月20日に厚労省が設置した「新しい時代の働き方に関する研究会」が会合を重ね、「報告書」を10月13日に公表しました。その中では、労基法の「労働者」「事業場」などの概念を見直す、と言っています。そして、この研究会のメンバーである水町教授は、「国家による上からの一律の規制に代わる新たな規制手法を考える」、と昨年5月16日の会議に提出した資料(「労働基準法制の改革の視点」)の中で明言しています。以上のことを付け合せると、経団連の『提言』は、独占資本と政府の「生産性の改善・向上に資する労働法制」に向けたものとして具体化したもの、といえるのではないでしょうか。

 こんな『提言』は、ぜったいに許すことはできません。全国の労働者は、団結することの重要性をかみしめながら、春闘の最中であるからこそ、この『提言』に対して反対の闘いを創り出していかなければなりません。あきらめずに、団結して、頑張ろう!