ヒノキの森の案内人のページ

『資本論』に学びながら、世の中の矛盾について考えたことをつづっていきます。

2024「労使フォーラム」の欺瞞

 2024年1月24日、経団連は、経営側の基本スタンスを周知することを目的とした「労使フォーラム」を開催しました。このフォーラムの総合テーマは、=「人への投資」促進による「構造的賃金引上げ」の実現=です。
 「人への投資」促進による―― とは、労働力商品をあらかじめ資本とみなして、この「人的資本」を「賃金」と言い、「資本投資」として〝賃上げ〝は行うのだから、必ず生産性向上によるより多くの企業利潤と結び付いたものとして実施されなければならない、というわけです。そして、「人への投資」は、「総合的な処遇改善・人材育成」も含まれるため、「賃上げ」が実際の「労働の価値としてあらわれる賃金」(下線は、筆者)以外のものも含まれるなどと称して、「賃上げ率」が水増しされます。
 「構造的賃金引上げ」―― とは、「賃金と物価の好循環」の別の表現です。つまり、経営者にとっては、生産物の価格を上げても、労働者の購買力が低下しないことが重要です。そのためにはある程度賃金を上げることにより、中間(所得)層の可処分所得を少しばかりふやすことが必要である、ということなのだと思います。

経団連会長の主張
 経団連・十倉会長は、ビデオメッセージで、参加者に対して、「今年は昨年以上の熱量と決意をもって、物価上昇に負けない賃金引き上げを目指すことが経団連、企業の社会的責務だ」「物価動向を重視しベースアップを念頭に置きながら、自社に適した方法でできる限りの賃金引き上げの検討・実施をお願いする」、と呼びかけました。
▼「連合」会長の主張
 このような経団連の主張に呼応して「連合」の芳野会長は、2024春闘に向け「3%以上の賃上げ分(ベア)を含む5%以上の賃上げを目安とする」と方針を掲げ、30年ぶりに3%台の賃上げを勝ち取ったとした・昨年の「5%程度」より「以上」にしたことにより、一歩踏み込んだ、とアピールして見せました。(※下線は、筆者による。)

 経営側が、「連合」の「5%以上を目安にする」という賃上げ方針を咎めないのは、「連合」が言っていることは経団連の言う「自社に適した方法」と同じ意味のことを言っているのだ、と理解しているからだと思います。つまり、「連合」指導部は、本気で5%以上の賃上げを経営者に要求してはいない、ということです。

 さて、この「労使フォーラム」をもって、事実上、春闘がスタートするはずなのですが、今年の春闘に向けて、昨年満額回答を示した大手企業の間では、経営側が組合側との交渉を待たずに早期に賃上げの方針を表明する動きも相次いでいます。
 この動きは、2024年の労使交渉は1月24日がスタートなのではなく、大手企業においては、すでに昨年のうちから始まっていたことを示しています。このことは、春闘方式のあからさまな破壊です。残念ながら、「連合」指導部の裏切りにより、春闘のあり方が、企業の持続的成長のための「労使の協創の場」に変質してしまっているからだと思います。

 今年1月から5月までに値上げが決定している飲食料品は、オリーブオイルやゴマ製品、 ケチャップや冷凍食品、輸入ウイスキーなど累計で 3891 品目判明しました。2024 年の値上げは、23年初旬に値上げして以降1年ぶりに価格改定を行う食品も多いです。値上げ の要因としては食材価格の上昇に加え、プラ製トレーや紙パックなどの包装資材、物流費の上昇 が引き続き多くを占めました。ただ、値上げペースは総じて大幅な減速傾向をみせており、24年通年 の値上げ品目数は最大で1万~1万5000品目の水準で推移すると予想されています。
 「連合」の低率な春闘方針では、「高スキル人材」等の一部の労働者以外の多くの労働者たちが、今より一層、生活苦にあえぐことは必至です。

メディアは、このフォーラムの欺瞞的な内容を報じるのではなく、〝労使双方が昨年を上回る賃上げを掲げた〝と今春闘に期待を寄せ、前向きに評価をしている始末です。

 春闘における、経団連の基本スタンスについては『経営労働政策特別委員会報告』を、「連合」については『連合白書』を検討し、後日、ブログに載せたいと思っています。

 さて、経団連は、『経営労働政策特別委員会報告』を発表した1月16日に、「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」を行っています。注視し、検討し、後日、ブログに載せたいと思います。