ヒノキの森の案内人のページ

『資本論』に学びながら、世の中の矛盾について考えたことをつづっていきます。

「大川原化工機冤罪事件」の深層を探る     ――裁判所の犯罪を暴く

★★★大川原化工機国賠訴訟の「判決」に記載のない裁判所の罪

 

 CALL4のサイトに第1審の『判決要旨』(A4、9ページ)が公開されているので、参考にしました。全文ではないので、詳細は分かりませんが、わたしが一番知りたかったことは、コンパクトにまとめられていました。以下、引用します。

 

 「亡相嶋の慰謝料については、体調に異変があった際、直ちに医療機関を受診できないなどの制約を受けるだけでなく、勾留執行停止という不安定な立場の中で治療を余儀なくされていていたことも考慮した。」

 「また、原告〇〇〇らの慰謝料については、夫であり父である亡相嶋との最期を平穏に過ごすという機会を被告らの違法行為により奪われたことも考慮した。」(※以上、『判決要旨』p.9より)

 

 この「判決理由」は、いったい何なのだ! 原告たちの悲しみや苦痛を逆なでし、まるで愚弄するかのような上からの言い様に思えます。相嶋さんを「直ちに医療機関を受診できないなどの制約を受ける」状態にしたのは、進行性の胃癌を発症したことがわかっていても8回もの保釈申請を却下し続けた令状担当の裁判官の所業ではないか! 「勾留執行停止という不安定な立場の中で治療を余儀なくされていた」のは、裁量保釈もせずに「勾留執行停止」のみを認めた同裁判官の所業ゆえではないのか! そして、そのことを〝上層部〝は、「経済安保」を背景にして、許可しているのです。保釈申請の却下にしろ、勾留執行停止にしろ、それは、裁判官個人の判断にとどまらず、組織の判断になっているのです。

 相嶋さんの遺族が「夫であり父である亡相嶋との最期を平穏に過ごすという機会」を「奪われた」のは、被告(警視庁公安部および東京地検)らの違法行為によるものと、「判決」は、保釈申請を却下し続けた東京地裁の過失に対する責任回避をするために、相嶋さんを被告のまま死に追いやったすべての責任を、被告である警視庁公安部および東京地検に押し付けています。

 本来逮捕の対象などではなく、外為法違反などしていない無実の人を社長や島田さんとともに1年近くも勾留し、自白を強要し、勾留中に発症した癌の適切な治療を受けさせないで、被告のまま死に追いやったことへの人間的な自責の念を持ち合わせていないのが、警視庁公安部および東京地検であり、そして東京地裁であることがよくわかります。「人質司法」においては、そのために人が死のうが関係ない、ということなのでしょう。酷すぎます!

 

 📝国賠訴訟判決直後の記者会見の場で、相嶋さんの長男は、次のように怒りを顕わにして述べていました。

 「癌とわかったあとの人生の過ごし方が、非常に(父の)尊厳を踏みにじられた。おそらくわたしたち人間の中では、最悪な形での最期を迎えてしまった。最期を平穏に過ごすことができなかった最大の要因は、保釈を認めなかった裁判官だと思う。」**********

 

★★「起訴の取り消し」に深く触れない「判決」

 

 警視庁公安部も東京地検東京地裁も、「起訴の取り消し」ということの重大さに気付いていないかのようにふるまっています。刑事裁判がなくなったから、はい終わり、では済まないのです。公安警察が警視総監のお墨付きをもらって会社役員3人を逮捕し、起訴担当の検事が、起訴ができる証拠がないのにもかかわらず、そもそも経産省の省令の「殺菌」の解釈が国際ルールと違っていても、「経済安保」を背景に、「犯罪」を捏造し、起訴を行ったのです。その後、別の公判担当の検事が「立証できない」として「起訴の取り消し」を申請した時、一時は、上層部もヒヤッとしたことでしょう。けれど、公判担当の検事による前代未聞の「起訴の取り消し」申請を上司が決裁したのは、ある思惑があったからではないか、とわたしは考えるのです。当時、「経済安保法」制定のための動きがあり、「大川原化工機事件」が、経済界の不満を抑えるために十分な働きを果たせた、と国家安全保障会議NSC)あたりが考えていたからなのではないか、とわたしは思うのです。2020年4月1日、NSCの事務局である国家安全保障局(NSS)内に経済分野を専門とする「経済班」が発足しました。大川原社長ら3人の役員が逮捕されてから、1ヵ月も立たない頃です。この「経済班」は、経済産業省出身の審議官と総務、外務、財務、警察の各省庁出身の参事官ら約20人体制で、民間の先端技術を軍事力に生かす中国の軍民融合政策をにらみ、経済と外交・安全保障が絡む問題の司令塔となります。

 起訴は断念したとしても、「大川原化工機事件」は、中国への輸出規制に不満を抱く経済界に、中国なんかに輸出をする企業はとんでもないことになるぞ、という国家意志を拒否するとどんな目に遭うかということを現実に示して見せた、という効果があったのではないか、とわたしはと思うのです。

 

逮捕と起訴は「国賠法上違法」と判断! しかし……「捏造」および「経産省の省令のあいまいさが公安部の独自解釈を許したこと」には触れず!

 

 大川原化工機国賠訴訟の判決(2023年12月27日)が、逮捕の違法性に加え、起訴の違法性も認めた、と大きく報じられた。また、国(検察)と都(警視庁公安部)に対する賠償命令額が異例に高い、とも。多くのメディアは、かつて、2020年3月11日に大川原化工機の社長ら3人の役員が逮捕された際に、警視庁公安部が流した情報を鵜呑みにして、まるで3人を犯人扱いして報道したことには頬被りして、「判決」内容を評価する報道をしています。

 けれど、「国賠法上違法」という判決の理由は、いったいどのようなものなのでしょうか? 

 ▲警視庁公安部による3人の逮捕については「必要な捜査を尽くさなかった」、ということが「国賠法上違法」の理由になっています。「必要な捜査」というのは、亡くなった相嶋さんや複数の従業員が指摘していたとおり、再度温度測定を行う、ということです。そうすれば、問題にされた「噴霧乾燥器の測定口の箇所対象となる細菌を殺菌する温度に至らないことは容易に明らかにできた」からです。その確認は、外為法違反の嫌疑の有無を見極める上で、当然にも「必要な捜査」だったということです。実験をしていれば殺菌できないことは容易に明らかになったのに、これをせずに逮捕したことは「国賠法上違法」、と東京地裁は判断したのです。

 ▲東京地検の起訴をした検察官に対しても、起訴前に同様の報告を受けており、この供述を踏まえて再度の温度測定を行っていれば、「本件各噴霧乾燥器の一部の箇所の細菌を死滅させるに至らないことは容易に把握できた」と指摘しています。勾留請求や起訴は、「検察官が必要な捜査を尽くすことなく行われたものであり」、「国賠法上違法」である、と判断しました。

 しかし、逮捕・起訴・勾留が違法であるという東京地裁の判断は、警視庁公安部も検察も「必要な捜査を尽くさなかった」ということが「国賠法上違法」である、ということなのです。それだけです。ナント! 判決は、〝捜査不足〝ということの問題、と限定してしまっているように思います。

 公安部や検察の「国賠法上違法」の理由を〝捜査不足〝に限定している、ということは、そこまでは下級裁判所である東京地裁が「違法」とすることを最高裁も許している、ということではないでしょうか。しかし、ほかのことは、「違法」とはしないことを〝忖度〝しているのではないでしょうか。

 ☞昨2023年6月30日の証人尋問の際に「捏造ですね」と捜査担当の警部補が仰天発言をしましたが、「判決」は、そのことにはまったく触れていません。警視庁公安部、検察、裁判所らが謝罪をしないのは、そのことを認めたくないからでしょう。認めたら、彼らの威信や信頼性はぶっ飛んでしまうからです。

 ☞また、「判決理由」では、生物化学兵器の拡散を防止することを目的とするオーストラリア・グループにおける国際的に合意された「殺菌」の定義を経産省が明確にせず、あいまいにしたことにつけ入り、公安部が〝独自解釈〝(捜査関係解釈)をして立件しようとしたことについては、東京地裁は「国賠法上違法ということはできない」としています。

 そして、検察が、この公安部の〝独自解釈〝を採用し、勾留請求および延長請求、起訴をしたことについても同様に「国賠法上違法ということはできない」としています。

☞さらに、「噴霧乾燥器の最低温度箇所の特定についても、粉体実験をしなかったことについても」「国賠法上違法ということはできない」と、法文解釈の問題にすり替えているのです。

 以上のことを考えるに、これら「国賠法上違法ということはできない」としていることは、イ)事件は「捏造」であるということの否定と、ロ)経産省の問題――すなわち、国際上合意されたルールを誤訳し、「殺菌」の定義を明らかにしないで通知した省令の不備を突かれて公安部の〝独自解釈〝を許し、それを根拠にした大川原化工機のガサ入れや逮捕を許す原因をつくったことなど――を不問に伏すことを狙ったためではないか、とわたしは思います。

 しかし、この一連の事態に対する東京地裁の判断は、「保釈申請を却下」し続けた裁判所の行為そのものを不問に伏すことを狙っているのではないか、とわたしは思います。

 

追記

島田さんに対する取り調べの違法性について

 

 ▲元役員の島田さんに対して、公安部の警部補が、「本件要件ハの『殺菌』の解釈をあえて誤解させた上、本件各噴霧乾燥器が本件要件ハの『殺菌』できる性能を持っていることを認める趣旨の供述調書に署名押印仕向けた」とし、「偽計を用いた取り調べである」として、「国賠法上違法」であると認めました。

 ▲そして、同公安部の警部補は、島田さんの弁解録取書を作成するにあたり、島田さんの指摘に沿って修正したかのように装い、島田さんが発言していない内容を記載した弁解録取書を作成し、署名指印させました。これを、「判決理由」では、島田さんを「欺罔」した、と指弾し、このような供述証書の作成は「国賠法上違法」である、としました。

 しかし、このような違法な取り調べは氷山の一角にすぎず、今回のような供述調書のでっち上げを可能にする「人質司法」なども、日常的に行われていることだ、とわたしは思います。

 

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「大川原化工機冤罪事件」の概要については、当ブログ「大川原化工機事件――『事件』は捏造された!」(2024.06.23.)を参照してください。